淡い光が指先から漏れ、次いでふわりと浮き上がる。
ふわりふわりと宙に漂う『それ』は部屋に入ってくる日の光を避けるように小雪の頭の上にたどり着くと、髪の隙間に潜り込むように消えていった。
「雪虫……それともケサランパサランでしょうか?」
それが自分の体内に戻っていった白燐蟲を見て思ったこと。
後者はおとぎ話の類なのだが、前者は実家にいた頃はよく見ていたものだ。
だからだろうか、なんとなく親しみが湧いた。
イグニッションを解除し、能力をカードに戻す。
と、全身に感じていたくすぐったいような温かいような感覚が消える。
それを残念に思うのと同時に少しだけほっとする。
本業能力として馴染み深い人なら違うのだろうけど、『成り立て』の小雪にとってはどうにも落ち着かなかったから。
「でも、早く慣れないといけませんよね」
ぐ、と拳を握って気合いをひとつ。
テストという学生最大の山場は越えたものの、海の向こうでは不穏な空気が漂っている。
いずれ能力者として向かわなければいけないことは間違いない。
そのためにも新しく得た力は十分に使いこなせるようになっておく必要がある。
そうでなければ、かつての守護獣に合わせる顔がなかった。
「ヒカゲ様……」
かつての守護獣の名前を呼ぶ。
真・ケットシーガンナー、ヒカゲ。
使役使いには全く持って向いてない自分に、それでも着いてきてくれた、守ってくれた存在。
主と使い魔なんてくくりを超えた関係であれたと、そう思っていた。
それなのに、自分勝手な都合で契約を解除してしまった。
守られる自分がもどかしくて。
守るための力が欲しくて。
そう告げたときにも黙って頷いてくれた。
だから。
「いつまでもコタツで丸くならないでください。本物の猫さんみたいですよ」
これくらいは、本当は全然かまわないのだけど。
『…………』
「ダメです。今日はこんなにいいお天気なんですから、お部屋は掃除してお布団も干さないと」
そんなやりとりをして、ヒカゲを少しだけ強引にコタツから引きずり出す。
抗議の声らしきものをあげたものの、ヒカゲはされるがままにコタツから出て……日向で丸くなった。
「もう……」
怒るべきなのかとも思うが、ついつい頬がほころんでしまう。
契約を解除した後も、ヒカゲは小雪に着いてきてくれた。
イグニッションカードには封じることが出来る容量とでもいうものがあるらしく、もうゴーストタウンやプールに連れて行くことは出来ないのだけど。
少なくとも、一人の部屋に帰ることだけはしなくてすむようになった。
それが家族と別れて一人で暮らしている小雪にとっては何よりも嬉しい。
そんなわけで。
木漏れ日荘204号室には、野良ケットシーが住み着いているのです。
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